New JCDTRについて
1.研究の背景
1980年代より,欧米では不整脈,特に頻脈性致死性不整脈による突然死予防に対する非薬物治療が飛躍的な進歩を遂げた。しかしながら、我が国ではその導入,普及が約10年遅れ,1996年にようやく植込み型除細動器(Implantable cardioverter defibrillator; ICD)の保険適応が承認された。その後、我が国の「不整脈の非薬物治療ガイドライン」も2001年に初版が策定・刊行され、致死性不整脈による心臓突然死を予防する極めて有効な治療手段として広く臨床応用されるようになった。さらに、2006年日本循環器学会が提唱する植込み型除細動器のガイドライン改訂版で二次予防法としてのICD適応が明確化されるとともに,一次予防についても心不全症状と心機能低下を認める例にまで適応が拡大された。その後のテクノロジー発展に伴う植込み型デバイスの高性能化,サイズの縮小化等もあり,ICDの適用例数はさらに増加し、症例の予後に関わる臨床的因子も判明してきた。しかし、現在の我が国の ICD 植込み基準は、心臓突然死に関する日本人のエビデンスがないため、欧米のメガトライアルの結果を参考に判断している状況である。
ICDの適応疾患には、心筋梗塞や拡張型心筋症のような心機能障害が明らかな場合もあるが、QT延長症候群、ブルガダ症候群のように左室機能は保たれながら先天的原因により致死性不整脈を呈するものまである。そのため、対象年齢も幼少期から高齢期まで幅広い年齢層に認められる。日本人では心臓突然死の基礎疾患として冠動脈疾患の比率が低く、その代わりに心筋症やブルガダ症候群が多くを占め、基礎疾患の分布が欧米とは大きく異なる。近年、我が国でも冠動脈疾患の増加が認められているが、日本人の冠動脈疾患患者では致死性不整脈の発生が少ない、との報告もある。アジア人に多いとされるブルガダ症候群でも、突然死に関連した疫学、ICD植込みを視野に入れた突然死のリスク階層化はいまだ十分には検討されていない。
近年、心臓植込み型デバイスもICDだけでなく、2004年に心臓再同期療法(CRT-P)が、2006年には心臓再同期療法付きICD(CRT-D)が保険適応となった。同時期、2006年に不整脈の非薬物療法ガイドライン改訂版が刊行された。その後,幅広いQRSと心機能低下に加え,軽度~中等度心不全(NYHAクラスⅡ,Ⅲ)を有する例に対するCRT-Dの有用性が認知され、CRT-DがICDに比して生命予後を改善することが示された。しかし、心不全の予後そのものが海外と異なる我が国におけるCRT-Dの適応が、海外の適応とほぼ同列でよいのかどうかは明らかではない。さらに、2015年からは皮下植込み型除細動器(S-ICD)も使用可能となった。このように、時代とともに心臓植込み型デバイスのガイドラインも変遷してきているが、それに伴い我が国での心臓デバイス植込み実態がどのように変遷し、植込みを行われた患者の予後がどのように変化しているのかは明らかではない。
以上の歴史的背景から、日本不整脈心電学会では2006年から2017年まで我が国での植込み型デバイス(ICD, CRT-P, CRT-D,S-ICD)の植込み治療が行われた患者の臨床背景の情報を約20,000例、UMINのシステムを利用して蓄積している。しかしながら、我が国全体の実態を把握するには不十分であるため、収集項目の刷新・登録がより容易なシステム構築を行い、悉皆性を高めていく必要がある。そこで本研究では新たに日本不整脈心電学会独自でデータベースを構築し、情報の集積を行う。過去のデータも含め、集積した情報から、我が国における心臓植込み型デバイスの適応ガイドラインの適性を検討する。
2.研究の目的と意義
我が国の心臓植込み型デバイスの植込み治療の実態を調査する。それによって、心臓植込みデバイス植込み基準の適性を検討する。
3.研究対象者
(1)前向き部分
我が国において心臓植込み型デバイス(ICD, CRT-P, CRT-D, S-ICD)植込み治療が行われた患者を対象とする。
※選択基準、除外基準はプロトコル参照のこと。
(2)後向き部分
日本不整脈心電学会で集積されている2006年から2017年までの植込み型デバイス(ICD, CRT-P, CRT-D,S-ICD)植込み治療が行われた患者を対象とする。
※選択基準、除外基準はプロトコル参照のこと。
4.研究の方法
(1)研究の種類・デザイン
既存情報を用いた後向き研究及び介入を伴わない前向き観察研究。
(2)研究のアウトライン
本研究では、同意が得られた研究対象者については、心臓植込み型デバイスの植込み時からの情報(5.観察項目参照)を1年毎にデータベースに登録する。日本不整脈心電学会で集積されている過去の情報(後向き部分)と本研究で集積した情報(前向き部分)をあわせ、植込み時の臨床背景とその後の予後等を比較することにより、デバイスの植込み適応が適切であったかどうかを判断する。
(3)研究対象者の研究参加予定期間
①前向き部分
同意取得後から研究対象者の死亡(あるいは経過観察不能)まで。観察期間に関しては5年毎に見直し、更新する。
②後向き部分
該当なし。
5.観察項目とスケジュール
(1)前向き部分
観察期間に実臨床で測定された以下の項目を、診療記録より収集する。なお、2006-2017年に植込み器機を植込まれた患者は、植込み時の登録事項を記入し、観察期間は2018年から開始する。2018年登録開始以前にイベント(適切・不適切作動、死亡)あるいは観察不能になった患者は、その旨を最初の1年の観察に記入する。
2018年以降に心臓植込み型デバイスを植込まれて登録を開始した患者は、その後1年毎に経過観察する。その後、経過観察は死亡するまで継続していく。
①植込み時
植込み時の以下の情報を収集する。
◯基礎項目
性別、年齢、植込みの種類、植込み術者、植込み目的、1次予防時の対象不整脈、植込み適応、植込みデバイス機種、植込み時のモード、植込みリード、除細動テストの有無、植込み時の合併症、併用薬剤(抗不整脈薬、心血管作動薬、抗凝固療法)、着衣型除細動器(WCD)使用の有無、腎臓透析の有無等
◯患者背景情報
身長、体重、基礎心疾患、冠動脈疾患の有無、冠動脈造影、植込み時までの血行再建術の既往、心房細動・粗動の有無、心疾患以外の疾患、NYHA 分類、左室機能、植込み時の胸部X線・心電図、非持続性心室頻拍の有無、VT.NSVTに対する治療の既往、Dyssynchrony,加算平均心電図、TWA, 電気生理学的検査、Holter心電図、血液生化学結果等
②経過観察
1年毎に以下の情報を収集する。
イベントの有無(VT/VFの発生、不適切作動、死亡、心不全のための入院、デバイスに関する合併症、デバイス関連の再手術)、臨床背景のイベント(非持続性心室頻拍、カテーテルアブレーション、血行再建術の有無)、経過観察不能と判定した日等
(2)後向き部分
2006年~2017年間のイベントの有無(適切・不適切作動、死亡)、観察不能の有無。
◯基礎項目(植込み時)
性別、年齢、植込みの種類、植込み術者、植込み目的、1次予防時の対象不整脈、植込み適応、植込みデバイス機種、植込み時のモード、植込みリード、除細動テストの有無、植込み時の合併症、併用薬剤(抗不整脈薬、心血管作動薬、抗凝固療法)
◯患者背景(植込み時)
基礎心疾患、冠動脈造影、心房細動・粗動の有無、心疾患以外の疾患、NYHA 分類、左室機能、植込み時の胸部X線・心電図、非持続性心室頻拍の有無、VT,NSVTに対する治療の既往、Dyssynchrony、加算平均心電図、TWA、電気生理学的検査、Holter心電図、血液生化学結果等
6. 目標症例数と研究期間
(1)目標症例数
対象全例とする。なお、前向き部分と後向き部分の内訳は以下のとおりである。
①前向き部分
対象全例とするが、年間約2,000例の集積が予測されるため、登録期間中に約10,000例を目標とする。
②後向き部分
日本不整脈心電学会で集積されている植込み型デバイス(ICD, CRT-P, CRT-D,S-ICD)の植込み治療が行われた患者、約20,000例。
(2)研究期間
研究実施期間、登録期間、観察期間は以下とする。なお、それぞれ5年毎に見直しをする。
研究実施期間: |
2018年1月1日 |
~ |
2023年3月31日 |
前向き部分登録期間: |
2018年1月1日 |
~ |
2023年3月31日 |
前向き部分観察期間 |
2006年1月1日 |
~ |
2023年3月31日 |
後向き部分対象期間 |
2006年1月1日 |
~ |
2017年12月31日 |
7.研究組織及び研究代表者
主導学会
一般社団法人 日本不整脈心電学会
清水 渉 理事長
安部 治彦 植込み型デバイス委員会 委員長
三橋 武司 植込み型デバイス登録評価部会 部会長
研究代表者
三橋 武司 星総合病院